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2000年9月の Favorite !! は

秋のおすすめ図書

海外文庫編




9月に入り、夏の暑さの中にも秋らしい気配が感じられるようになりましたね。
そんな秋の夜長に、読書はいかがですか?
今月は nami お勧めの海外文庫をご紹介します。



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目次
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『ライ麦畑でつかまえて』
J.D.サリンジャー著 野崎 孝=訳(白水ブックス)


『グリーン・マイル』
スティーヴン・キング著 白石 朗=訳(新潮文庫)


『アルジャーノンに花束を』
ダニエル・キイス著 小尾 芙佐=訳(早川書房)




『ライ麦畑でつかまえて』J.D.サリンジャー著 野崎 孝=訳(白水ブックス)


 本屋さんではこの本に「永遠の青春小説」というような見出しがついていましたが、これがはたして青春小説なのかどうか、私には判断しかねます。が、この本はすごい本です。なにがすごいって、まず訳がすごいです。海外図書は訳によって与えられる印象が大分かわってしまうと思いますが、この小説をこれ以上の訳で出版することはできないでしょう。なぜなら、それくらい強烈な印象でこの文章は頭の中に入り込んでくるからです。

 訳がすばらしいと先に述べましたが、内容あっての訳ということですから、もちろん内容もすばらしい。こんなに皮肉でご機嫌で抱腹絶倒の小説は読んだことがないくらいと言ってもいいほどです。何度読み替えしてもその軽妙な語り口にあっという間にひきこまれてしまいます。
 しかしながらこの本はいっけんご機嫌な主人公の奔放な青春ストーリーのように見えて、実は深層心理に深く働きかけるところがあるように思います。読みながら笑いがとまらない一方、客観的で冷静なのにきれて急にとんでもないことをしでかしてしまいそうな主人公を、現代のきれる若者に重ね合わせてふと恐くなってしまうときがあります。そしてそんな心理は実は自分の中にもあって、この本を読むと自分の心の中のそういった部分にじかにつきささってくるような感覚を覚えるのです。

 ジョン・レノンを殺害したマーク・デビッド・チャップマンは犯行時にこの『ライ麦畑でつかまえて』を所持していたとか。そしてその本にはなぜかサリンジャーでなくスティーブン・キングのサインがしるしてあったということです。なにか意味深いものを感じますね。








『グリーン・マイル』スティーヴン・キング著 白石 朗=訳(新潮文庫)


 少し前に映画化された物語です。個人的には昔から「原作を読んだら映画を見ない、映画を見たら原作を読まない」と決めているのですが、なぜかというとだいたいは先に観たり読んだりした方のイメージが強すぎて、後から見た方にがっかりしてしまうからです。また、原作と映画では細部が微妙に違っていたりするし、イメージする人物像と俳優さんがしっくりこないことも多いです。
 映画版『グリーン・マイル』の主人公はトム・ハンクスですが、この時点でなんだか私のイメージする主人公とは違うような気がしたので、映画は見ていません。

 スティーヴン・キングは言わずと知れたアメリカのホラー小説作家です。その作品の多くが映画化されているので御存じの方も多いことでしょう。
(『ミザリー』『ペット・セメタリー』『シャイニング』『スタンド・バイ・ミー』『イット』etc...)
『グリーン・マイル』はホラー小説というジャンルに入るのかどうかは分かりませんが、設定が死刑囚の舎房であることや、殺人・死刑執行の場面などがスティーヴン・キング独特のグロテスクな表現で描かれていることなどから全体ではやはりほの暗い雰囲気の作品です。
 しかし、そういった雰囲気の中だからこそ、あちこちにちりばめられていた伏線がみごとに集結されたラストが際だっているのでしょう。
 実際この小説は 6 巻からなっていて、数カ月に1 巻ずつ発売になったので全巻出そろうまで1年くらいかかったようですが(私は出てからしばらくして一気に読みました)、そんなに長くかかった小説のつじつまが最後でぴたりとあう(しかも意外なラスト!)というのは、読み手側は「やれらた!」という感じでしょう。

 恐怖と奇跡と感動の入りまじったすばらしい作品です。

(写真注:本棚を探しましたが 1 巻が見つからず、なぜか 2 巻が二つありました)








『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス著 小尾 芙佐=訳(早川書房)


 この不朽の名作はもうすでに読まれたという方も多いのではないでしょうか。最近では文庫化されて、さらに読みやすくなりました。

 精神薄弱という障害をもっている主人公のチャーリーに実験的脳外科手術をほどこし、だんだんと天才になっていくのですが、そんな彼の目がとらえた現実の世界とはどんなものだったのでしょうか。
 知能が低いばかりにいじめられたりこき使われていた真実、理解することの不幸を知ってしまうということ。体験したことのなかった様々な現実。
 そして、主人公の意志とは関係なく実験であるが故に実験の終わりもまた悲しい現実が待っているのです。

 悲しく美しいこの小説は、きっとこれからもずっと名作として残ることでしょう。














私はあまり本をたくさん読む方ではありません。また、読んでいても途中で挫折してしまう本も多いのです。
しかし、今回ご紹介した本はどれもみな読みやすく、ついつい時間も忘れて読んでしまうくらいにすばらしい内容のものばかりです。
9 月の『Favorite !!』を読んで、これらの小説に興味を持ってくださったらとてもうれしい限りです。



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